ブラックジャックの黒いコートあるいは生存戦略に基づいた意識的な選択

ブラックジャック先生の黒いコート

正月休みに暇だったのでブラックジャック先生のことをいつの間にか考えていた。あるある。

ブラックジャック先生を知らない人のためにいちおう説明すると本名は間黒男といって無免許の医者だ。 不幸な生い立ち、手術料は法外で、友人は少なく、同居人は腫瘍に幼女の肉体を与えた少女。あっちょんぶりけ。 でも腕はたしか。 もうすでに終わった存在と思われていた手塚治虫を復活させたマンガの主人公だ。

ブラック・ジャック 1

ブラックジャック先生は夏でも黒のコートを着ている。 これはとても医者らしくない。 なぜ彼がこんな格好をしているかというと、彼は医者にみられたくない医者だからだ。 つまり夏でも黒のコートを着ているほうがブラックジャック先生として生きやすいのだ。 難しくいえば黒のコートは生存戦略に基づいた意識的な選択であったのだ。

では、なぜ黒のコートのなにが彼にとって有利にはたらくのだろう。 ブラックジャック先生がコートを手放さない表層的な理由(いいわけ)はいつでも手術ができるように手術道具をコートの中に仕込んでいるためだ(銃刀法違反だ)。 たまに命を狙われたときにコートに仕込んでいたメスで相手を撃退しているので、自分の身を守るためという理由もあるかもしれない。

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しかし、手元にはせいぜいメス一本くらい残しておいてほかの手術道具一式は鞄の中に入れておけばいい。 メス一本ならジャケットでもパンツでも隠しポケットの中に入れたりすれば身軽に動けるしコートいらないですよね。 なんなら拳銃でもいいじゃないですか。 はい論破。

他人が想起するわたしと他人にイメージされたいわたし

唐突な自分語り。

ぼくは仕事で打ち合わせに行くときたいてい普段着のままでいく。 ときどき普段は着ないジャケットで行くこともあるがスーツにネクタイはない。 それはスーツにネクタイという格好に意味がないというよりもマイナスだからだ。

どういうことかというと、スーツにネクタイという格好はビジネスを思わせる。 そしてぼくはエンジニア職でビジネス的な立場でものを言うのが得策でない職種だからだ(これくらい3日あればできるよね?)。 たまに、同じ職種でスーツにネクタイの人もいるが残念ながらビジネスとしては的はずれなことしかいえないのでただの間抜けにしか見えない。

立場的に非ビジネスのことしかいえない人間がビジネスの格好をしてもおかしなことになるだけだ。 格好だけそれらしくしても不格好が目立つだけで世の中そこまで甘くないのだ。

エンジニアにも経営的な視点をという意見もあるがそれについては depends on としかいえない。

逆に、普段着でビジネス的に的はずれなことを言ってもこいつはエンジニアだからしゃーないと大目に見てもらえる。 あえてそのような的はずれな意見をすることで場の空気を変えたり、自分の意見を聞いてもらいやすくできるのだ。

人は他人を外見で判断する。自分の中の既成概念で相手がどんな人間なのかラベリングするのだ。

あなたがスーツを着てツーブロックで色黒なら不動産か保険の営業だと思われる。 問題は他人が想起する記号化されたイメージがあなたにとって有利にはたらいているかどうかだ。

記号化されたイメージとあなたが相手に与えたいイメージは異なるだろうかそれとも同じだろうか。 もし異なるのなら、異なることがプラスに働いているのだろうか。

黒いコートの理由

さて、話をブラックジャック先生に戻そう。

彼はモグリ(無免許)でしかも法外な診療報酬をぼったくる医者なのだ。 既存の価値観からは逸脱している。 患者の多くはおそらく彼のような医者とは会ったことがないだろう。

そこでまず患者に第一印象で「なんだこいつは」と思わせる必要がある。 ようやく答えにたどり着いた。そうそこで黒いコートが必要になるというわけです。

夏でも黒のコート、こいつ変なやつだな。と。 そう思わせればこっちのもの。 手術料さんぜんまんえんですと請求しても相手はああこいつは変な格好しているだけあって手術料もめちゃくちゃなんだなと納得してくれる。はずだ。

髪は七三、黒ぶちメガネで立ち居振る舞いは聖人君子の医者が「うーん、手術料いちおくえんですね」何事もないように伝える。あなたは何が起こったのかわからないだろう。あれ、これ募金とか必要なやつじゃん。それって海外で受けるから高いんでしょ。ここは日本医療保険とても発達した国。これは何かの間違いだ、そうだもしかしたら病気とか全部夢だったのかな。あぁなんだ夢だったか、びっくりしたびっくりしたと思考がお花畑方面に旅立ってしまう。 これはいけない。 患者は一刻を争う病状かもしれないのに、手術料の同意を得るどころか患者が自分の置かれた状況について疑問を持ち始めたら手術までの道のりがずいぶんと遠回りになってしまう。

はたまた冷静に弁護士とか警察とか手続きを取られるのもよくない。 臨場感がすべてだ。 相手に自分のフォーカスさせたい情報にフォーカスさせ、かつ冷静さを失わせた状態で意思決定を行わせる必要がある。 そこで、そう黒いコートですね。

普通の医者のように合法的な診療報酬を取るのであれば、夏は長袖のシャツとジャケット、それに医療用の器具が入った鞄というスタイルで過ごすはずだ。 事実研修医時代の彼はほかの医者と同じファッションだった。

まとめると自分の要求を通しやすくするためには見た目が重要だということ。 それをブラックジャック先生は気づいててあえて夏でも無理して黒いコートを着ているということ。

以外と計算高い男だったんだね、ブラックジャック先生は。

ブラック・ジャック 3